なぜ「あの暖暮」に、外国人観光客は行列するのか?~SNSをAIで分析してわかった行列の「理由」~

沖縄の皆さんも、観光客の皆さんも、那覇市の国際通り近くを歩いたことがある人なら、気になっている行列店があるかもしれません。沖縄料理店や居酒屋が並ぶ沖映通りの一角で、連日のように長い長い行列ができているラーメン店があります。「ラーメン暖暮 那覇牧志店」です。

(ラーメン暖暮那覇牧志店と行列・筆者撮影)

行列に並んでいる人の多くは、外国人観光客、それも台湾、香港、中国などから訪れた観光客のようです。特に台湾人観光客の姿が目立つようです。写真は平日のランチタイム前後に撮影したものですが、多くの海外からの観光客と思われる方が行列していました。筆者自身も実際に行列に並び、店内で食事をしましたが、周囲では韓国語や中国語、広東語などの会話が多く聞かれました。

疑問:なぜ「那覇牧志店」には行列ができるのか?

確かに、暖暮は、間違いなくおいしい豚骨ラーメンを提供してくれるお店です。

しかし、暖暮は福岡県筑紫野市発祥の豚骨ラーメンチェーンで、本店は二日市にあります。また沖縄県内にも複数の店舗があります。那覇市内だけを見ても、牧志店以外に暖暮のラーメンを食べられる店舗が複数あります。

しかも、他の店舗であれば、牧志店ほど長時間並ばずに食べられることも珍しくありません。ほぼ同日の同時刻に、牧志店とほぼ同様のラーメンが楽しめる、牧志店から徒歩10分程度の同じ暖暮姉妹店「烈火ラーメン暖暮 那覇開南店」も訪れました。筆者が確認した時点では、写真のように、行列はなく、店内には空席もあり、すぐに入店できる状態でした。牧志店の店頭でも、開南店への来店を誘導しています。

それにもかかわらず、なぜインバウンド観光客は、行列に並んでまで牧志店を目指すのでしょうか。

(同日同時間帯の姉妹店「烈火ラーメン暖暮那覇開南店」の様子・筆者撮影)

そこで、私は、中国語繁体字で書かれた旅行ブログ、旅行情報サイト、グルメサイト、地図サービスの口コミなどをAIを使って横断的に整理してみました。そうすると、単に「ラーメンがおいしいから」だけでは説明できない、興味深い構造が見えてきましたので、皆さんにご紹介したいと思います。

【ご注意】本記事は、筆者が公開情報と現地での観察をもとに独自に執筆したものであり、ラーメン暖暮那覇牧志店及びその運営会社から依頼、監修、商品提供その他一切の便宜を受けたものではありません。筆者は生成AIを情報の整理に使用していますが、すべての口コミを統計的に収集・分析したものではありません。本文には公開情報から導いた筆者の仮説や推測を含みます。

結論:「牧志店そのものが観光名所になったから」

最初に結論を述べると、台湾人観光客が牧志店に集中する最大の理由は、牧志店だけに特別なラーメンがあるからではないと考えられます。また、牧志店だけに中国語を完璧に話せるユニークな店員がいる、台湾人や香港人向けの限定メニューがある等の明確な差も、今回確認した公開情報からは見つかりませんでした。

むしろ大きいのは、台湾の旅行情報の中で、

「沖縄でラーメンを食べるなら暖暮、それも那覇牧志店」

という認識が、長年にわたって形成されてきたことです。つまり、台湾人をはじめとするインバウンド観光客にとって牧志店は、単なるラーメンチェーンの一店舗ではありません。「沖縄旅行で訪れるべき有名店」として、一種の観光名所、訪れることがステータスの沖縄ラーメンの聖地といっても過言ではないぐらいの地位を築いているということがわかりました。

では、結論に至った詳しい理由を見ていきましょう。

理由1 台湾の旅行ブログが早くから牧志店を紹介していた

ラーメン暖暮の那覇牧志店は、沖縄における暖暮の最初の店舗です。インバウンド観光が本格化する以前の2007年には開業しています。そのため、台湾の旅行ブログや沖縄旅行の紹介記事でも、比較的早い時期から牧志店が取り上げられてきました。

繁体字で書かれた過去の旅行記事を見ると、牧志店については、このような表現が繰り返し使われています。

「沖繩必吃」
「國際通排隊名店」
「台灣人最愛的沖繩拉麵」

日本語にすれば、「沖縄で必ず食べるべき店」「国際通りの行列店」「台湾人に超人気の沖縄ラーメン」といった意味です。(なお、本文中の中国語表現は、特記のない限り、複数の公開情報に記載された内容の趣旨を筆者が要約したものであり、特定の投稿からの直接引用ではありません。 )

旅行者が沖縄に行く前にインターネットで検索すると、牧志店を紹介する記事や動画が数多く表示されます。すると、初めて沖縄を訪れる人は、暖暮の店舗一覧を検索して比較するのではなく、記事に書かれている牧志店を、そのままブックマークし、旅行日程に入れるようになります。

つまり「暖暮のラーメンを食べたい」と考えるのではなく、「旅行ブログで見た、あの牧志店に行きたい」と考えるわけです。

ここでは、店舗の味やサービスの差よりも、どの店舗が先に旅行情報の中で有名になったかが、来店先を決めています。

理由2 「一蘭を破ったラーメン」という、わかりやすい物語

暖暮の牧志店を紹介する繁体字の記事で、非常によく使われているのが、

「擊敗一蘭」
「榮獲九州拉麵比賽冠軍

という類の表現です。 これは日本語に訳すと「一蘭を打ち破った」「九州ラーメン総選挙で1位になった」という説明です。

有名なラーメン店「一蘭」は海外でも知名度が高く、日本旅行の際に必ず立ち寄るべきラーメン店として広く知られています。台北や香港にも一蘭の店舗があり、現地でも高い人気があります。

そのため、観光客に対して暖暮を説明する場合、単に「福岡発祥の豚骨ラーメン」と紹介するよりも、

「あの一蘭に勝って、1位になったラーメン」

と紹介した方が、はるかに分かりやすく、興味を引きます。

当時、暖暮の店舗前に掲げられていた「九州ラーメン総選挙第一位受賞」という表示も、旅行者にとって格好の撮影対象になりました。そしてその写真が旅行ブログやSNSに投稿され、次の旅行者がそれを見て来店する・・・。こうして、牧志店には「豚骨ラーメンの有名店を体験する」という物語が徐々に蓄積されていきました。

ラーメンの味そのものだけでなく、「あの一蘭を超えた店に行ってみたい」という、非常に分かりやすく、強く印象に残る物語が、来店を後押ししているのです。(なお、ここでいう「一蘭を破った、一蘭を超えた」という表現は、ラーメンの味や店舗の客観的な優劣を意味するものではなく、過去の投票結果をもとに旅行記事等で使われている表現です。 )

理由3 国際通りという場所の力

牧志店は、観光名所の国際通りから歩いてすぐの場所にあります。

周辺にはホテル、飲食店、土産物店、ドン・キホーテ等の量販店などが集まっており、台湾や香港からの個人旅行者が歩いて回る代表的なエリアです。牧志店に関する、繁体字の旅行ブログやSNSでは、

「国際通りで買い物をした後に行った」
「ホテルに戻る前に食べた」
「夜遅くまで営業しているので便利だった」

という内容の記述が多く見られます。

短期間の沖縄旅行では、観光客は限られた時間の中で、買い物、食事、観光を効率よく組み合わせようとします。レンタカーやタクシーを使って別の店舗へ移動するよりも、国際通りの観光中に徒歩で立ち寄れる牧志店の方が、行列を見込んでも、圧倒的に予定へ組み込みやすいのです。

深夜午前2:00まで営業している点も、観光客にとって大きな利点です。夜の国際通りを楽しんだ後でも立ち寄れるため、「沖縄旅行最後の夜食」としても選ばれています。

理由4 小さな店だから、行列がさらに目立つ

牧志店は、客席数の多い大型店ではありません。カウンターを中心とした比較的小さな店舗であるため、一定数の来店客が集中すると、すぐに店外へ列が伸びます。

例えば、同じ人数が来店した場合でも、50席の店舗と10席程度の店舗では、外から見える行列の長さがまったく異なります。牧志店では、実際の来店者数の多さに加えて、席数の少なさによって、行列がより長く、印象的に見えます。

そして、観光地では行列自体が広告になります。通りかかった人は、

「これだけ並んでいるなら、有名な店に違いない」と考えます。(私もそう思いました。)

行列の写真はSNSにも投稿されます。そして、その投稿を見た次の旅行者が、「自分も沖縄に行ったら並んでみよう」と考えます。(私も並びました。)

そして、行列の様子や体験したラーメンは、写真付きでSNSにシェアされます。(私も写真を撮り、知人にシェアしました。)

つまり牧志店では、

人気があるから行列ができる
 
行列があるから写真を撮られる
 ↓ 
写真が広がるから、さらに観光客が来る

というわかりやすい好循環が生まれているのです。

理由5 多言語対応やキャッシュレスが、来店時の不安を下げている

牧志店では、外国人観光客でも注文しやすいよう、多言語の説明や注文方法が用意されています。

暖暮では、写真入りの多言語メニューが提供されています。また、注文は食券制ですが、券売機のボタンには料理の写真と多言語表記があり、操作方法についても、写真付きで多言語の説明が用意されています。そのため、日本語に不安のある外国人観光客でも安心して食券を購入できます。

(那覇牧志店の券売機のボタンと使い方の説明・筆者撮影)

また、暖暮は、麺の太さと硬さ、スープの濃さ、辛味の量、ネギの有無など、好みを細かく選びます。日本語が分からない旅行者にとって、こうした注文方法は少し複雑です。

(ラーメン暖暮那覇牧志店の食券(画像は一部加工)・筆者撮影)

しかし、外国語の説明や記入例があれば、初めての旅行者でも安心して注文できます。暖暮では、この記入例が大変わかりやすく、しかも、英語・中国語(繁体字・簡体字)・韓国語の多言語で提供されています。そして店員さんがこの記載方法を細かく説明してくれます。

(牧志店に置かれている、食券の好みの記入方法の説明・筆者撮影)

キャッシュレス決済への対応も、外国人観光客にとって利便性を高める要素です。暖暮では、現金を持っていなくても、AlipayやWeChat Pay、台湾の多くのQRコード決済と互換性を持つPayPayなどで、海外QRコード決済が利用可能です。

ただし、多言語対応やキャッシュレス決済は、暖暮や牧志店だけの特徴とは限りません。他のラーメン店でも、暖暮の他店舗でも多言語対応やキャッシュレス決済は行われています。したがって、多言語対応やキャッシュレス決済は「牧志店に観光客が集中する直接的な理由」というより、来店した旅行者が困らずに食事をできる環境をつくり、来店のハードルを下げることで、良い口コミを増やしている要因と見る方が適切です。

「おいしい」だけでは、行列を説明できない理由

もちろん、暖暮の豚骨ラーメンは、台湾人観光客から一定の評価を受けています。(私もおいしいと感じています。)

例えば繁体字の口コミでは、

「湯頭很濃郁」
「沒有太重的豚骨腥味
細麵很好吃」
「辣醬很合我的口味」
「我比起一蘭更喜歡暖暮 」

といった好意的な感想が多く見られます。日本語にそれぞれを訳すと「スープが濃厚」、「豚骨の臭みが少ない」、「細麺がおいしい」、「辛味だれが好みに合う」、「一蘭より好き」といった意味になります。

一方で、

「普通だった」
「期待したほどではなかった」
「長時間並ぶほどではない」

という意見もあります。味の好みは十人十色ですから、評価が分かれることは自然なことです。つまり、味の評価は必ずしも全員一致ではなく、「おいしい」という理由だけでは行列ができていることを説明しきれません。

もし、牧志店の人気を味だけで説明するなら、他の暖暮の各店舗にも同じような行列ができていなければ不自然です。それでも牧志店だけに観光客が集中するのは、味以外の理由が大きいことを示しています。

つまり、牧志店は「最もおいしい店舗」という理由だけで選ばれているだけではなく、「旅行中に行く理由が明確な店舗」という理由でも選ばれているのです。

観光客の心理:「おいしい店」より「失敗しない店」を選ぶ

牧志店に行列が集中する背景には、もう一つ、観光客特有の心理があると考えられます。

それは、「限られた旅行中の食事で失敗したくない」という心理です。

地元に住んでいれば、入った店が期待外れでも、「次は別の店に行こう」と考えることができます。しかし、海外から数日間だけ沖縄を訪れる観光客にとって、現地で食事ができる回数は限られています。一度の昼食や夕食の選択を誤ると、その旅行中にやり直すことは容易ではありません。特に、沖縄を再び訪れる時期が分からないインバウンド旅行者にとっては、一回の失敗に対する心理的な損失が大きくなります。

そのため、観光客は必ずしも「最もおいしい可能性がある店」を選ぶわけではありません。

むしろ、

「自分と同じ国や地域から来た旅行者がすでに試している」
「旅行ブログで何度も紹介されている」
「店の前に行列ができている」
「多言語対応も整っている」
「一蘭よりおいしいと書かれている」

といった情報を手掛かりに、「大きく失敗する可能性が低い店」を選びます。

牧志店の行列は、人気の証拠であるだけでなく、初めて訪れる観光客にとっての安心材料でもあります。他の暖暮店舗の方が空いているという可能性があっても、旅行者から見れば、牧志店には大量の口コミ、写真、体験談という「選択を正当化できる材料」があります。一方、あまり紹介されていない店舗には、同じラーメンを提供していたとしても、その安心材料が十分にありません。

つまり牧志店は、「最もおいしいと確信できる店」というよりも、「せっかくの沖縄旅行で、選んで後悔しにくい店」として選ばれている可能性があります。

行列に長時間並ぶことは、一見すると限られた旅行時間内では非合理的な行動に見えます。しかし沖縄での食事にやり直しが効かない旅行者にとっては、待ち時間を支払うことで、食事選びに失敗するリスクを下げている、合理的な行動とも考えられるのです。

AIで整理すると見えてきた「人気の自己増殖」

今回、公開されている繁体字の旅行情報や口コミをAIで横断的に整理したところ、牧志店の人気は、次のような流れで形成されたと考えられます。

沖縄1号店として早くから開業する。
 
台湾の旅行サイトやブログ、SNSが牧志店を紹介する。
 
「一蘭を破った九州1位のラーメン」という分かりやすい物語が広がる。
 
国際通りの観光ルートに組み込まれる。
 
店舗が小さいため、行列が目立つ。
 
行列の写真がSNSや旅行ブログに投稿される。
 
検索すると、牧志店の情報がさらに多く表示されるようになる。
 
そして、次の旅行者も何度も目にした「あの暖暮」である、那覇牧志店を目指す。

この循環の中では、暖暮が福岡発祥であることや、沖縄県内に何店舗あるかは、あまり重要ではありません。旅行者が見ているのは店舗一覧ではなく、検索結果、旅行ブログ、動画、SNSで何度も目にした「あの暖暮」である那覇牧志店です。そして、この評判は「自己増殖」し、いつ見ても大行列の「あの暖暮」を形成しています。

インバウンド集客で重要なのは「商品の差」だけではない

牧志店の事例から分かるのは、インバウンド観光客を集めるうえで、商品やサービスの違いだけが競争力になるわけではないということです。同じチェーン、同じ商品であっても、

  • どの店舗が最初に海外の旅行情報で紹介されたか。
  • 外国人に説明しやすい物語があるか。
  • 観光客の移動ルートに入っているか。
  • 写真を撮って投稿したくなる光景があるか。
  • 検索したときに、同じ店舗の情報が繰り返し表示されるか。

牧志店には、中国語(台湾華語を含む)や韓国語、英語が完璧に通じること、ここにしかない限定メニューがあること、内装が特別に豪華であることなど、他店との決定的な差別化要因は確認できませんでした。したがって、行列ができる理由は単一の決定的要因ではなく、複数の要因の組み合わせだと考えられます。

まとめると、私は、牧志店の最大の強みは、繁体字圏の旅行情報の中で、

「沖縄でラーメンを食べるなら、かの有名な一蘭を破った暖暮、それもSNSで何度も見た『あの暖暮』!」という地位を、経営努力を積み重ね、長い時間をかけて獲得し、それが自己増殖していることだと考えています。

インバウンド市場では、実際の商品力に加えて、「海外の顧客からどのように発見され、どのような言葉で紹介されているか」を把握することが重要です。自社の商品や店舗が外国人に選ばれている場合、その理由は、事業者自身が考えている強みとは異なるかもしれません。

反対に、良い立地で、良い商品を提供しているのに外国人観光客が来ない場合も、問題は立地や商品ではなく、海外の情報空間にまだ「選ばれる理由」が形成されていないことにあるのかもしれません。

このような分析は、実は生成AIを使うと、以前比べずっと簡単に、高い精度で分析できるようになりました。(プロンプトにちょっとした「工夫」が必要ですが。)皆さんも「あの行列店の秘密は何なのか」、AIで分析してみてはいかがでしょうか。

最後に:「あの暖暮」はおいしい!

とはいえ、AIでの分析だけでは、わからないことは多いです。現場に出て、自分で体験してみることは、とても重要です。私も現場をとても重視しています。

(ラーメン暖暮那覇牧志店のチャーシューメン・筆者撮影)

・・・というわけで、私も外国人観光客の皆様に交じり、行列に並んで、実際にラーメンをいただいてきました。

「やっぱり暖暮はおいしい!!」

おいしいものを楽しむことに、AIで分析した理屈はあまり重要ではなさそうです。皆さんも那覇にお越しの際は、インバウンド観光の現場視察を兼ねて、ぜひ観光客の気分で「あの暖暮」に並び、ラーメンを楽しんでみてはいかがでしょうか。