沖縄そばは、外国人観光客から、どう思われているのか?~AIを使って見えたこと、見えなかったこと、そして現場に行ってわかったこと~

沖縄を代表する料理といえば「沖縄そば」ですよね。

沖縄県民には身近な日常食であり、県民のソウルフードと言って間違いありません。日本人観光客にも人気があり、有名店には開店前から地元客と観光客の行列ができることも珍しくありません。私も大好きです。

しかし、那覇市内を見ていると、ラーメン店やステーキ店等には多くの外国人観光客が並んでいる一方、沖縄そば店では外国人の姿がそれほど目立たないように私は感じています。なぜ、地元客にも日本人観光客にも人気のある、おいしい沖縄そばが、外国人観光客・インバウンド観光客にはそれほど人気が無いのか、疑問に思いませんか?

そこで、私は、外国語の旅行記事や口コミをAIで分析し、さらに二つの人気店を実際に訪問して、それを確かめてみました。結論からいえば、沖縄そばが外国人に受けないのではありません。外国人観光客にとって「沖縄そばを選ぶ理由」そして「その店を選ぶ理由」が伝わっているかどうかで、大きな差が生まれている可能性がある。ということがわかりました。

もう一つこのコラムでお伝えしたいことがあります。それはAI活用の大きな可能性と、その限界です。AIを使うことで新しく見えてきたこともあれば、AIの分析だけでは分からなかったこともありました。わからなかったことを、現場に行って検証したことで、当初の仮説を大きく修正することになりました。今回のコラムでは、このAIの可能性と限界についても、私の体験談を交えて、詳しくお伝えしたいと思います。

※本記事は、公的統計、公開されている外国語の旅行記事・口コミを生成AIで分析した結果と、筆者が特定日時に行った店舗観察を元にした分析です。沖縄そば店全店を網羅的に、定量的に分析したものではなく、外国人観光客全体の行動を統計的に証明するものではありません。またこの記事には筆者の推論や意見を含みます。

沖縄料理は外国人にも人気。では、沖縄そばは?

沖縄県の「令和6年度外国人観光客実態調査」では、外国人観光客の88.3%が「沖縄料理、及び特産品を使用した料理を楽しむ」と回答しています。地域別でも、台湾90.4%、韓国85.6%、香港88.8%、中国90.0%と高い水準です。また、「食事のメニュー・味」に満足またはやや満足と回答した割合も、合計93.4%と、こちらも高い水準です。したがって、沖縄の食全般が外国人観光客に支持されていることは、公的データから定量的に確認できます。

ただし、この調査は「沖縄料理及び特産品を使用した料理」全般を対象としており、沖縄そば、ちゃんぷるー、アグー豚料理、ステーキ、海ぶどう、ラフテーなどを個別に集計していません。したがって、公的なデータから確認できるのは、「沖縄料理全般は、外国人観光客から高い関心と満足を得ている」ということまでです。

つまり、沖縄料理は全体としては人気だといえますが、沖縄そば単体の喫食率や満足度は、現在の公的統計からは分からず、沖縄そばが外国人観光客に人気があると単純に結論付けられません。

外国人は、自国の料理と比較して沖縄そばを見る

外国語の口コミをAIで整理すると、外国人観光客は沖縄そばを、自国で食べ慣れた麺料理と比較して評価していることが分かります。これは、外国を旅する旅行者に普遍的にみられる現象です。私たち日本人も海外の料理を、「うどんに似ている」「日本の煮物に近い」「お好み焼きのようだ」等と、日本にある料理に例えて説明します。それと同じです。外国人は、沖縄そばの麺、スープ、豚肉を、自国や地域で食べ慣れている料理に置き換えながら評価しています。

台湾・香港では、庶民的な麺料理に近く見える

台湾からのインバウンド観光客にとって、沖縄そばは陽春麺という、身近な麺料理と比較されやすい構成を持っています。

陽春麺は、地方により多少のバリエーションがありますが、小麦粉を原料とした麺を、鶏や豚から取ったスープで、少量の青菜やネギを添えた比較的シンプルで淡泊な汁麺です。ゆで卵や薄切り肉を添えることもあります。この陽春麵は中国華中から華南、台湾で広く食べられていて、庶民的で経済的な料理として台湾の人には認識されています。

(陽春麺のイメージ(AI生成))

沖縄そばは、

  • 小麦粉を使った麺
  • 比較的澄んだスープ
  • シンプルな具材
  • 日常的な庶民料理

・・・とこの陽春麺に非常によく似た特徴を持っています。つまり、台湾の旅行者にとって、沖縄そばは全く未知の料理ではありません。

香港では、沖縄そばの麺を、車仔麺などに使われる油麺に近いと表現する例があります。香港人が運営する沖縄情報サイトでは、ある沖縄そば店について、豚骨スープや軟骨ソーキを高く評価する一方、麺の食感は香港の油麺に似ていると紹介しています。

車仔麺は、直訳すると「リヤカー麺」という意味です。元は屋台で売られていたとされる麺料理で、好きな麺、具材、スープ、調味料などを選んで組み合わせる手軽な料理です。1960年代に忙しい香港の労働者を中心に人気を集め、現在では香港を代表する庶民料理として、香港をありとあらゆるところで手軽に味わえる料理です。車仔麺よく使われる麺の一つの「油麺」とは、かん水を使った、黄色みがかったコシのある麺 です。ラーメンや沖縄そばによく似ています。


もちろん、陽春麺や車仔麺と沖縄そばは、同じ料理ではありません。しかし、台湾や香港の旅行者にとって、沖縄そばは、「見たことも食べたこともない、沖縄にしか存在しない麺料理」というよりも、「自国にも少し似た料理がある、沖縄式の庶民的な麺料理」として理解されているようです。

親しみやすいことは食文化を理解してもらえるうえで、大きな利点です。一方で、限られた旅行中に「絶対に食べるべき特別な料理」とは感じにくい可能性もあります。日本人が海外旅行へ行った際、現地の人に人気があるというだけで、あえて普通のかけうどんやかけそばに近い料理を探し、レンタカーを飛ばし、バスや電車に揺られ、長時間並んで食べるか?と考えると、理解しやすいかもしれません。

一言でまとめると、台湾や香港の観光客は、沖縄そばがおいしくないから食べないのではありません。日常的で親しみやすい、自国にもある麺料理の一種に見えるため、限られた旅行中の一食を使う優先順位が上がりにくいのではないか、ということです。(もちろん、これは外国語の旅行記事や口コミから、AIを用いて導いた私の仮説であり、台湾人や香港人全体の評価を証明したものではありません。)

韓国では、「そば」という名前とのギャップがある

韓国語で「ソバ」といえば、蕎麦を使った麺を連想する人が少なくありません。地域によってバリエーションがありますが、メミルは韓国語で蕎麦を意味し、韓国ではメミルグクスマッククスなど、蕎麦を使った麺料理が広く食べられています。(ここでの「蕎麦」とは麺類の総称ではなく、タデ科ソバ属の一年草の実から作った「そば粉」を原料にした麺類を指します。)

(メミルグクスのイメージ(AI生成))

しかし、沖縄そばは、そば粉ではなく小麦粉を使った温かい麺料理です。見た目は韓国のうどんのような料理、カルグクスに近い部分があります。ただし、カルグクスはかん水を使わないため、沖縄そばのような食感ではなく、日本のウドンに近い食感です。

そのため、韓国からのインバウンド観光客には、「想像していた日本蕎麦やメミルとは違う」、「カルグクスに似ているが、麺の食感が独特」と受け止められている可能性があります。

また、韓国語の口コミでは、沖縄そばのスープを「すっきりしている」「脂っこくない」と高く評価する声がある一方、「薄い」「物足りない」と感じる人もいます。

韓国人にとって、沖縄そばはおいしい・おいしくないというより、食べる前の期待と知識によって評価が分かれやすい料理だと考えられます。

検証:AIだけでは分からなかった、二つの店の現場

SNSや旅行サイトでは、沖縄そばについて、「雰囲気が良かった」、「おいしかった」という好意的な口コミは決して少なくありません。AIで分析した結果は、これらの点は私の仮説と一致していましたが、「なぜ沖縄そば店に外国人観光客の行列ができないのか」という私の疑問は解消されませんでした。

そこで、現場に実際に行ってみないとわからないと思い、外国人観光客の好意的な口コミが多い店を選び、実際に訪問することにしました。そこで訪れたのが、那覇市国場の「すーまぬめぇ」です。

満員で超人気の「すーまぬめぇ」に、外国人観光客が見当たらなかった。

すーまぬめぇは、那覇市国場にある、赤瓦、庭、座敷など、誰もがイメージする「昔ながらの沖縄らしさ」がある有名店です。口コミサイトでも非常に多くの口コミがついており、外国語による好意的な口コミが確認できます。外国語圏の複数の旅行記事でも紹介されている有名店です。AIは「外国人にも評価されている沖縄そば店」の筆頭としてこの店を挙げました。(私個人も沖縄にいらした皆さんに自信をもってお勧めしたい有名店です。)

(すーまぬめぇの外観(筆者撮影))

「さすがはAI、いい店を選ぶなぁ、ここなら外国人観光客があふれているに違いない!」と私は自信満々で、土曜のランチタイムに訪れました。案の定、店は満員で、店の外にまで待ち客がいる状況でした。ところが、私が観察した時間帯には、外国語で会話しているグループは見当たらず、ほとんどが日本人観光客か地元客と思われました。なお、メニューは日本語を含む4か国語で表記されており、外国人観光客を受け入れるための配慮も確認できました。 

私は、「デラックスそば」に「じゅーしー」を頼みました。これこそ「ザ・沖縄そば」です。お店の人の接客も申し分なしです。もう最高、大満足です。

(すーまぬめぇのデラックスそばとじゅーしー(筆者撮影))

沖縄の古民家を使った雰囲気最高の店構え、箸でつまんだ瞬間ほろほろと崩れる軟骨ソーキにてびち、庶民的な麺料理とは一線を画し、本ソーキに軟骨ソーキ、てびちと豪華に三枚肉が盛られた「デラックスそば」はまさに沖縄の「くわっちー」、店構えも料理も、外国人観光客が喜ぶ要素は満載のはずです。

しかし、こんなにおいしくていい店なのに、少なくとも、私が滞在した時間帯・観察した範囲では、外国語で会話するグループは確認できず、海外から来たと判断できる観光客は見当たりませんでした。ほとんどが、日本人観光客か地元客と思われるお客様でした。

ここで私は、「地元客や日本人観光客であふれている繁盛店であることと、外国人観光客を引き付ける店であることは同じではない」という基本的な事実に気づきました。インターネットやSNSで高評価であることと、繁盛店であること、外国人観光客をひきつける店であることは必ずしも一致しません。

(お断り:来店者の国籍を外見や言語から完全に判断することはできないため、外国人観光客が全くいなかったと断定するものではありません。 もちろん、これはある日一度の訪問時の観察であり、普段の客層を総括的に示すものではありません。)

外国人観光客が多かった「OKINAWA SOBA EIBUN」

その違和感をAIに伝え、仮説を修正したうえで、検証先として訪れたのが、那覇市壺屋の「OKINAWA SOBA EIBUN」です。従来の沖縄そばを基礎に、新しいスタイルを組み合わせた創作沖縄そばを提供しています。

実際に訪問すると、すーまぬめぇとは客層が大きく異なっていました。昼下がりなのに行列ができており、日本人だけでなく外国語で話すグループが複数確認でき、私が訪れた土曜の昼下がりの時間帯には韓国語の会話が目立ちました。

(EIBUN外観(プライバシーに配慮し画像一部加工:筆者撮影))

EIBUNの店構えは伝統的な古民家ではなく、店内は明るく南国的で現代的で、どちらかというとカフェのような雰囲気です。BGMも沖縄の伝統音楽や民謡ではなく、ビートの効いたクラブミュージックが流れています。

メニューも、伝統的な沖縄そばだけでなく、

  • 複数の肉を華やかに盛り付けた商品
  • 牛肉を使ったメニュー
  • 辛味のあるメニュー

などがありました。実際に、EIBUNを紹介する繁体字の旅行記事では、スープが台湾の排骨湯に近いと説明され、韓国語の記事では、一般的な沖縄そばより麺が食べやすく、肉の量や冷たい創作メニューなどが評価されています。

また、

  • 麺や具材を細かく選択できる 
  • たくさんの「味変」アイテム
  • SNSに投稿したくなる盛り付け

など、外国人観光客の味の好みや旅行スタイルに幅広く応えられるようになっています。メニュー画像付きの多言語対応の券売機やクレジットカード決済にも対応し、初めての旅行者でも、日本語が不自由でも注文しやすい設計です。

(EIBUNの券売機のイメージ(簡体字中国語)(筆者撮影))

私は「牛肉もやしそばパクチーまみれ」を「よもぎ麺」でいただきました。牛肉もやしそばは、沖縄本島北部の食堂などでも親しまれてきた、沖縄そばのアレンジの一つですが、伝統的な沖縄そばではありません。パクチーを山盛りにした盛り付けには、EIBUNらしい創作性を感じます。 

そして、これがうまいのです。牛肉もやしそばパクチーまみれは、伝統的な沖縄そばではありません。しかし牛脂の甘み、パクチーの香りにそそられ、一気にすすり上げてしまいました。

EIBUNは、沖縄そばを全く別の料理に変えているのではありません。伝統的な沖縄そばを踏襲しながらも、伝統にとどまらず、沖縄そばを知らない外国人にも、写真やメニューを見ただけで価値が分かる形に再編集しているのです。

(EIBUNの「牛肉もやしそばパクチーまみれ」(筆者撮影))

間違っていたのは、「沖縄そばは外国人に受けない」という仮説

沖縄そばの名店に外国人観光客が並ばない様子や、他の専門家からの意見もあり、私は「沖縄そばは外国人観光客には理解が難しい」と思い込んでいました。そして、すーまぬめぇを訪れた直後、それは確信に近いものになっていました。しかし、EIBUNでは、多くの外国人観光客が実際に沖縄そばを楽しんでいる様子を見て、考えが間違っていることに気が付きました。

二つの有名店の現場を比べることで、沖縄そばに対する、私の仮説は次のように変わりました。

沖縄そばが外国人観光客に受けないのではない。 しかし、 伝統的な沖縄そばの魅力は、そのままでは外国人観光客の「店を選ぶ理由」になりにくい。立地、メニュー、見せ方、選択肢、SNS・インターネット上での発見しやすさを工夫することで、外国人観光客にもっと選んでもらえる可能性がある。

重要なのは、伝統的か創作系かという単純な違いではありません。昔ながらの沖縄らしさがあれば外国人に選ばれるわけでもなく、現代的にすれば自動的に選ばれるわけでもありません。

大事なことは、初めて沖縄そばを体験しようとする外国人観光客が、来店前に「その店を選ぶ理由」を理解できるかという点です。沖縄そばに必要なのは、単なる外国語翻訳ではなく、商品の違いや魅力を伝える「価値の翻訳」なのかもしれません。

私はEIBUNがテーマとして掲げている「世界がまだ沖縄そばを知らないだけ」という言葉は、これを端的に表現している素晴らしいフレーズだと思っています。どうやったら沖縄そばを知ってもらえるのか、それを考えることが、外国人に沖縄そばを理解してもらううえで大事なのではないかと思います。

AIは、正解を出す機械ではなく、仮説を更新する道具

今回、もう一つお伝えしたいことは、AIの活用の可能性と、その限界です。

AIは外国語口コミの整理、公的統計との照合、国・地域ごとの評価軸の比較に役立ちました。一方、AIが最初に挙げた店を訪れると、現場は私の想定と異なっていました。AIが示した情報が虚偽だったわけではありません。外国語の好意的な口コミや高評価は実際に存在します。

問題は、仮説の立て方だったと思います。

好意的な外国語の口コミが多い
 
だからいつも外国人観光客が多い

と、人間(私)側が推論してしまったことです。

しかし、口コミを書かなかった人の行動、現在の店内の客層、店の空気、写真を撮る人の多さ、外国人がどのメニューを選んでいるかといった現場の情報は、公開データだけでは把握することが困難です。

また、インターネット上の口コミには偏りがあります。口コミを書く人は来店者全体の一部です。有名店ほど投稿が集まり、過去に注目された店ほど検索結果に表示され続けます。Googleマップ、Tripadvisor、韓国のブログ、台湾の旅行サイトなど、使用する媒体によって見える旅行者層も変わります。

そのため、AIの回答を鵜呑みにし、そのまま現実の結論として使うことは危険です。

今回の経験から、AIを市場調査等のビジネスの現場で使う際には、

AIで仮説を立てる
 
現場で確かめる

 ⇓
違和感をAIに戻す

 ⇓
仮説を修正して、再び検証する

という往復が重要だということを改めて理解しました。

AIの価値は、最初から正解を得られることではありません。人間がより良い問いを作り、AIの回答に違和感を持ち、その違和感を材料として、よりよい問いを作るという、対話のプロセスにあります。今回、私はAIの分析と現場観察を往復したことで、現実に近い仮説にたどり着くことができたと思っています。

まとめ:沖縄そばに足りないのは、味ではなく「選ばれる理由」かもしれない

沖縄料理全般は、外国人観光客から高い関心と満足を得ています。一方、沖縄そば単体の人気を示す十分な公的データはなさそうです。

現場では、筆者が訪問した時間帯には、伝統的な人気店では外国人観光客と思しき来客が見当たらない一方で、現代的な見せ方をする人気店には、多くの外国人観光客が訪れていました。

この二つの観察から考えられるのは、沖縄そばの商品力に問題があるのではなく、外国人観光客にも分かる形で、店ごとの価値が伝わっているかどうかが重要だということです。

そして、AIによる分析にも同じようなことがいえます。

AIは常に正しい結論を導き出すとは限りません。しかしそれをAIに問題があると決めつけるのではなく、我々がAIができること・できないことを適切に把握し、データ、AI、現場を往復し、「答え」に近づいていくことが大事なのだと思います。